『れきナビ―やしお歴史事典』:旧版:慶長17年上馬場村検地帳(20200808版)

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 慶長17年上馬場村検地帳〔けいちょうじゅうしちねんかみばんばむらけんちちょう〕(慶長17年=1612年)は、八潮市域に現存する最古の検地帳(1冊)。 八潮市指定有形文化財(古文書)「慶長年間の検地水帳」。

※検地および検地帳の概要、八條領の検地一覧表、長さと面積の単位については「検地」参照
※上馬場村の検地帳の伝来などについては「上馬場村検地帳」参照
※画像について、拡大表示したい場合や出典を確認したい場合は、画像をクリックしてください。

目次

形態など

  • 形態:竪帳〔たてちょう〕
  • 寸法:縦33.4センチ・横23.4センチ
  • 丁数:23丁(表紙・裏表紙含む)
  • 慶長20年(元和元年、1615年)検地帳(濱野家文書321、市指定文化財)と合冊。

記載事項

表紙(国郡名・日付・案内者など)

表紙
※翻刻はこちら
  • 表題:「武州喜西郡〔きさいぐん〕上馬場村御検地水帳」(「喜」は異体字)→上馬場村が武蔵国〔むさしのくに〕喜西郡(騎西郡)に属していたことがわかる。
  • 日付:「慶長拾七年壬子〔みずのえね(じんし)〕卯月〔うづき〕十八日」→慶長17年(1612年)壬子4月18日
  • 案内者:「安(案)内者大かく(黒印)」(日付の下に記載)→案内者(人)は、検地役人を案内した村民で、村の有力者から選ばれた。「大かく」は、上馬場村濱野家初代の大学忠秀。
  • 冊数:「一帖〔じょう〕」→検地帳が全1冊であったことを示す。
  • とじ目に押されている印:大学忠秀の黒印

裏表紙(検地役人など)

裏表紙(右)
※左は慶長20年(1615年)検地帳。
※翻刻はこちら
  • 枚数:「墨付廿〔にじゅう〕三枚」→墨付23枚
  • 検地役人:「石原源兵衛・成瀬忠左衛門・筆 松村庄蔵」→伊奈半十郎忠治〔いなはんじゅうろうただはる〕の家臣。「筆」は、松村庄蔵が検地帳に記入したことを意味するか。
  • 末尾の文言:「うつし」→本史料が原本ではなく、写しであることを意味するか(原本作成と同時期の写本?)。
  • とじ目に押されている印:大学忠秀の黒印

本文1(田畑一筆ごとの記載)

 本文は、表紙裏から裏表紙裏にかけて、1~3の順に記載されている。

田畑一筆ごとの記載(一部)
※翻刻(注付)はこちら(PDF)
  • 計206筆
  • 記載例1:(画像の右から1行目)
(右脇)(1)東通
(2)十六間・五間半 (3)上田(4)弐セ(畝)十八歩〔ぶ〕 (5)大かく
  • 記載例2:(画像の左から4行目)
(右脇)(1)同(東通)
(2)十壱間・二間 (3)下畠(畑)(4)廿二歩 (5)A大かく分(左に)B彦四郎
※以下原文の「畠」は、「畑」と表記する。
  • (1)所在地名(字〔あざ〕名、小字)
  • (2)土地の縦と横の長さ
  • (3)地目と等級(上田・中田・下田・上畑・中畑・下畑)
  • (4)面積
  • (5)名請人
※名請人については「検地#名請人」参照
  • 主作地:記載例1の場合は、名請人(大学)の「主作地」と称する。
  • 分付〔ぶんづけ〕記載:記載例2のA(大学)を「分付主」、B(彦四郎)を「分付百姓」と呼び、Aの「分付地」、Bの「被分付地」と称する。分付記載の解釈については諸説あるが、分付百姓が分付主に隷属していたことを意味するとか、分付百姓が分付主の分家であることを意味するなどとされる。
※「大かく分 主作」という記載も若干ある。
  • 石高の記載なし(2・3同)。
  • 訂正箇所が散見される。

洪水による不作地

  • 「年不」「水いかり年不作」という記載がある「田」(等級記載なし)が1筆存在する。
  • 「水いかり」は洪水の意とされるので、洪水によって不作地となった田と考えられる。
  • 所在地名は「西通」。
  • 縦横長さは70間(約127メートル)・30間(約55メートル)、面積は7反。
  • 名請人は、個人名ではなく「郷分」と記載されている。村の共有地の意か。

新田

  • 所在地名が「新田分」「新田分西通」「新田西通」と記載されている土地がある。
  • 全て下田。

本文2(屋敷一筆ごとの記載)

  • 計4筆
  • 各筆の面積と名請人は次の通り。
    • 4畝15歩 新二郎
    • 6畝15歩 大学
    • 3畝24歩 新七郎
    • 5畝 甚右衛門
  • 所在地名の記載なし。
  • 人名(名請人)の下に「居」と記載されている。

本文3(地目・等級別の面積集計値)

  • 次の通り記載されている。
    • 上田 1町4反1畝
    • 中田 1町9畝27歩
    • 下田 2町4反3畝21歩 (新田分除く)
    • 下田 2町9畝19歩 新田分
    • 上畑 5反8畝11歩
    • 中畑 5反3畝20歩
    • 下畑 3町9反1畝18歩
    • 屋敷 1反9畝24歩
    • 田畑屋敷合 12町2反7畝25歩 (計算値は12町2反7畝20歩)
    • このほか「年不田」7反 「水いかり」
  • 「年不田」を含む田畑屋敷の面積は、計12町9反7畝25歩。
  • 田は計7町7反4畝7歩、畑は計5町3畝19歩で、比率は6対4。
  • 新田分(全て下田)の面積は、全体の約16パーセント。
  • 「年不田」(「水いかり」)の面積は、全体の約5パーセント。
※同年の年貢割付〔わりつけ〕状(『八潮市史 史料編1』史料7)に記載されている面積と比較すると、上田・中田・上畑・中畑・下畑・屋敷の面積は一致する。下田は、割付状には4町5反3畝15歩とあり、検地帳記載の4町5反3畝10歩(2区分の下田を合算)よりも5歩多い。
地目・等級別の面積内訳

字別の面積一覧表

※検地帳には字別の集計値は記載されていない。
字名 屋敷
はんはかた(馬場方) 1町2反5畝18歩 6反5畝5歩   1町9反23歩
東通 7反9畝25歩 2町3反9畝2歩 3町1反8畝27歩
やしき下(屋敷下) 1畝12歩 1畝12歩
田きわ(田際) 2反9畝3歩 2反9畝3歩
1反8畝 1反8畝
西通いかり 7畝20歩 4反9畝3歩 5反6畝23歩
馬口通 27歩 4反2畝27歩 4反3畝24歩
西通 8反9畝29歩 8反9畝29歩
天神通 4畝14歩 4反1畝1歩 4反5畝15歩
後通 2町6反15歩 1反4畝3歩 2町7反4畝18歩
新田分西通 1町6反3畝14歩 1町6反3畝14歩
新田分 4反6畝5歩 4反6畝5歩
(記載なし) 1反9畝24歩 1反9畝24歩
7町7反8畝17歩 4町9反9畝26歩 1反9畝24歩 12町9反8畝7歩

注 

  • 八潮市史 通史編1』690ページ表71「上馬場村の検地帳にみる小字別田畑」の集計値より作成。
  • 「通り」「通」は、「通」に統一した。
  • 「新田分西通」は、「新田西通」を含む。

名請人別の筆数・面積一覧表

※検地帳には名請人別の集計値は記載されていない。

主作地+分付地+屋敷(分付記載は分付主を集計)

順位 名請人 主作地 分付地 屋敷 備考
1 大学(濱野) 38筆・3町9反2畝12歩 37筆・2町3反3畝14歩 1筆・6畝15歩 76筆・6町3反2畝11歩 分付百姓は11人
2 新二郎 41筆・1町9反8畝23歩 2筆・7畝26歩 1筆・4畝15歩 44筆・2町1反1畝4歩 分付百姓は2人
3 甚右衛門 36筆・1町7反9畝26歩 3筆・8畝16歩 1筆・5畝 40筆・1町9反3畝12歩 分付百姓は2人
4 新七郎 21筆・1町1反1畝19歩 1筆・5畝15歩 1筆・3畝24歩 23筆・1町2反28歩 分付百姓は1人
5 外記 8筆・3反9畝25歩 8筆・3反9畝25歩
6 市右衛門 10筆・2反6歩 1筆・3畝15歩 11筆・2反3畝21歩 分付百姓は1人
7 甚十郎 2筆・5畝   2筆・5畝
8 新五郎 2筆・2畝 2筆・2畝
9 かま 1筆・24歩 1筆・24歩
10 彦四郎 1筆・12歩 1筆・12歩
11 弥七郎 1筆・10歩 1筆・10歩
計   161筆・9町5反1畝7歩 44筆・2町5反8畝26歩 4筆・1反9畝24歩 209筆・12町2反9畝27歩 「年不田」(1筆・7反)を含まない

注 順位は合計面積による(次表同)。

※大学名請地の面積は、村全体の約51パーセント。大学名請地の面積のうち約37パーセントは分付地。分付主5人の分付地面積のうち約9割は大学。
※屋敷持4人の名請地の面積は、計11町5反7畝25歩で、村全体の約94パーセント。

主作地+被分付地+屋敷(分付記載は分付百姓を集計)

順位 名請人 主作地 被分付地 屋敷 備考
1 大学 38筆・3町9反2畝12歩     1筆・6畝15歩 39筆・3町9反8畝27歩
2 新二郎 41筆・1町9反8畝23歩 2筆・7畝17歩 1筆・4畝15歩 44筆・2町1反25歩 分付主は大学
3 甚右衛門 36筆・1町7反9畝26歩 2筆・1反11歩 1筆・5畝 39筆・1町9反5畝7歩 分付主は大学
4 外記 8筆・3反9畝25歩 21筆・1町5反4畝21歩 29筆・1町9反4畝16歩 分付主は大学他3人
5 新七郎 21筆・1町1反1畝19歩 1筆・3畝15歩 1筆・3畝24歩 23筆・1町1反8畝28歩 分付主は市右衛門
6 左衛門五郎      2筆・2反6畝5歩   2筆・2反6畝5歩 分付主は大学
7 助五郎 2筆・2反5畝29歩      2筆・2反5畝29歩 分付主は大学
8 市右衛門 10筆・2反6歩 3筆・3畝10歩 13筆・2反3畝16歩 分付主は大学
9 新五郎 2筆・2畝 4筆・1反2畝25歩 6筆・1反4畝25歩 分付主は大学他1人
10 西蔵浄      1筆・6畝24歩 1筆・6畝24歩 分付主は大学
11 甚十郎 2筆・5畝 2筆・5畝
12 彦四郎 1筆・12歩 3筆・2畝9歩 4筆・2畝21歩 分付主は大学
13 主税之助      1筆・2畝20歩      1筆・2畝20歩 分付主は大学
14 弥七郎 1筆・10歩 1筆・1畝20歩 2筆・2畝 分付主は新二郎
15 天神    1筆・1畝 1筆・1畝 分付主は大学
16 かま 1筆・24歩 1筆・24歩
計   161筆・9町5反1畝7歩 44筆・2町5反8畝26歩 4筆・1反9畝24歩 209筆・12町2反9畝27歩 「年不田」(1筆・7反)を含まない
※分付地を除いた大学の名請地(主作地+屋敷)の面積は、村全体の約32パーセント。
※主作地を持たない分付百姓(被分付地のみの名請人)は5人。

参考文献・ホームページ

八潮市立資料館刊行物・収蔵文書

  • その他資料館刊行物
  • 資料館収蔵文書
    • 寄託 上馬場濱野昭家文書33・487・2774 
※検地帳は省略。

その他

  • 朝尾直弘・宇野俊一・田中琢[2]編『角川 新版 日本史辞典 第5版』(角川学芸出版部、2007年)「案内人」「分付」
  • 和泉清司『徳川幕府成立過程の基礎的研究』(文献出版、1995年)877、886~887、893~894ページ
  • 小澤正弘著発行『関東郡代伊奈氏の研究』(2004年)32~34、43、86~87ページ
  • 小澤正弘著発行『関東郡代伊奈氏の研究2』(2009年)163、172~176、197、216、220、282~283、375ページ
  • 葛西用水路土地改良区編集発行『葛西用水史 通史編』(1992年)204ページ
  • 埼玉県編集発行『新編埼玉県史 通史編3 近世1』(1988年)第1章第2節
  • 若尾俊平編著『図録・古文書入門事典(新装版)』(柏書房、1997年)88ページ
  • 広報やしお』第365・530・532号 ※「郷土の歴史346・347 八潮の地名考24・25 上馬場の地名 その壱・弐」のPDFは‎こちら
  • 『越谷市史 続史料編(1)』(越谷市役所市史編さん室、1981年)36、41、49ページ
  • 『八潮の歴史さんぽ~行ってみよう! 八潮の遺跡や文化~』(八潮市史跡保存会、2020年)

関連項目

☆このページの令和元年(2019年)9月10日版はこちら
  1. 濱野昭家の「濱」は、正しくは異体字の「Hama.jpg」(Unicode:U+6FF5)です。この字は、オペレーションシステムなどの環境により正しく表示されない可能性があるため、本文では正字体の「濱」(常用漢字は「浜」)で表記しています。
  2. 田中琢の「琢」は、正しくは旧字体の「Taku.JPG」(Unicode:U+FA4A)です。この字は、オペレーションシステムなどの環境により正しく表示されない可能性があるため、本文では人名用漢字で表記しています。
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