『れきナビ』講座:くずし字にチャレンジ! 往来物
提供:『れきナビ―やしお歴史事典』
往来物は、平安時代後期から明治初期にかけて使用された庶民用の初級教科書です。「往来」とは手紙の往来の意で、古くは手紙の模範文例集でしたが、のちには単語を列挙したものなども含めて「往来物」と呼ばれました。
- ※画像を拡大表示したい場合は、画像をクリックして開くページをご覧ください。
目次 |
文化11年(1814年) 新撰増補大全商売往来
- ※高橋家文書は八潮市登録文化財。
- 画像
- 翻刻・読み下し文(注付)→こちら(PDF)
- 解説:往来物の一ジャンルである「商売往来」に属する木版本で、商売に関する単語が列挙されています。本文には平仮名(変体仮名を含む)で振り仮名が付されています(歴史的仮名遣い)。書名の「新撰〔しんせん〕」は、新たに撰集(編集)したという意です。「大全」は、漏れなく収録したという意で書名に付されます。ちなみに、冒頭の書名には「増字」とありますが、見返しには「増補」とあり、文書目録には「増補」として登録されています。
- ※変体仮名については、「『れきナビ』講座:八潮の資料で学ぶ 平仮名・変体仮名」をご覧ください。
参考 寺子屋や小学校で使用された「商売往来」
寺子屋尚古堂の手習書と「商売往来」
尚古堂〔しょうこどう〕は、西袋村の名主小澤豊功〔おざわとよかつ〕が開設した寺子屋です。『八潮市史 史料編 近世2』第2章「寺子屋尚古堂」第2節「尚古堂の手習書」の史料29に、天保6年(1835年)「大浚〔おおさらい〕書」の写真が掲載されています。内容は数字といろはに始まり、「商売往来」も含まれています。ちなみに、『新撰増補大全商売往来』と比較すると、文言に相違があります。
小学校で使用された「商売往来」
明治14年(1881年)「埼玉県小学校教則課程一覧表」(『八潮市史 史料編 近代1』史料116)を見ると、中等科第5級(4年生後期)の「習字」に、「行草交り 農業往来・商売往来・女今川・女大学等」とあり、明治10年代の小学校でも「商売往来」が用いられていたことがわかります。
- ※明治13年(1880年)に刊行された『改正商売往来』(資料館寄託 高橋家文書2073、複製本CH1311)があり、これに挙げられている単語は「諸会社・銀行」に始まり、「電信」「円」「銭」「厘」なども見えます。形式は「商売往来」ですが、収録されている単語には時代が反映されているといえます。ちなみに、明治7年(1874年)の大曽根学校の蔵書目録(『八潮市史 史料編 近代1』史料59)を見ると、「世界商売往来」があります。
参考文献・ホームページ
八潮市立資料館刊行物
- 展示パンフレットなど
- 『第11回(生涯学習)企画展 解説図録 寺子屋―地域の情報センター―』(1995年)
- 八潮市史編さん物
- 『八潮市史 通史編1』(1989年)1087~1092ページ
- 『八潮市史 通史編2』(1989年)88ページ
- 『八潮市史 史料編 近世2』(1987年)史料29、解説一、年表902ページ
- 『八潮市史 史料編 近代1』(1981年)史料59・116
- 『八潮のふるさと新書1 小澤豊功』(八潮市、2001年)第3章
- 『八潮市史調査報告書11 八潮の諸家文書目録1』(1985年)89ページ
- 『八潮市史研究』創刊号(1978年)資料紹介資料4
- 小沢正弘「寺子屋尚古堂について」(『八潮市史研究』創刊号、1978年)
- 石山秀和「関東農村にみる寺子屋の意義―武蔵国埼玉郡八条領西袋村の場合―」(『八潮市史研究』第15号、1994年)
その他
- 朝尾直弘・宇野俊一・田中琢[1]編『角川 新版 日本史辞典 第5版』(角川学芸出版部、2007年)「往来物」
- 海後宗臣監修『図説 教科書のあゆみ』(日本私学教育研究所事業委員会、1971年)376~377ページ
- 日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第2版』全14巻(小学館、2000~2002年)
関連項目
- ↑ 田中琢の「琢」は、正しくは旧字体の「」(Unicode:U+FA4A)です。この字は、オペレーションシステムなどの環境により正しく表示されない可能性があるため、本文では人名用漢字で表記しています。