荘郷

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中世の荘園・郷分布図(埼玉県域の一部]
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※注意(脚注参照)[1]
※荘郷の範囲等については、諸説存在する荘郷もあり、年代による変遷もあり得る。
※図に記載がない風早荘についてはこちら
大瀬古新田付近の河道は、中世当時ではなく、近代改修後。

 荘郷〔しょうごう〕とは、主に荘園(荘)と郷で構成される日本中世の土地制度。

目次

荘郷とは

 荘園は、地方の豪族等により開発された私的所有地(私領)。郷は、古代の律令国家の地方行政組織の単位から地方社会の変動と共に公領(国の役所である国衙〔こくが〕が支配する領地)の一定地域を指す。これらは一般に荘園公領制という概念で提示されることが多い。両者とも大田文〔おおたぶみ〕(一国の荘園や公領全てについてのその面積や領有関係を記した台帳)によって田数を確定され、賦課の対象となっている。  

荘園とは

 荘園については、成立の契機から墾田地系荘園、寄進地系荘園の二つに区別される。前者は、初期荘園とも呼ばれ、天平15年(743年)に公布され、墾田永世私財法によって形成された荘園である。墾田永世私財法は、土地の開墾者にその開墾地の私有を認めるものであった。土地の支配のみが先行し、荘内に定住している農民に毎年一定の耕地を耕作させる方法をとらず、周辺の班田農民を雇用、もしくは浮浪逃亡民の労働力に依存していた。そのため維持・管理は不安定であり、現地の豪族の協力に依存し、多くは10世紀末までに消滅した。
 それに対し、寄進地系荘園は平安後期に「富豪」と称される地方の豪族が、国衙による収公を免れ、現地における自分の地位を確保しようとするため、開発した私領を中央の貴族や大寺社に寄進して成立した荘園を指す。中央の貴族や大寺社は荘園領主となり、寄進主体の開発領主は下司などの荘官に任じられて荘園の実際の管理・運営にあたった。荘園領主は領家と言われるが、さらに上級領主として皇室や摂関家に寄進することもあり、これは本家と呼ばれる。このようにして成立する寄進地系荘園は、本家職〔しき〕‐領家職‐下司職というように「職」といわれる権利関係が一つの荘園において重層的に積み重なる形態をとった。こうした複雑な土地所有関係を基礎とする寄進地系荘園は、中世的な荘園である。
 一方で伊勢神宮や京都の賀茂社の荘園(神領)は「御厨」〔みくりや〕と称している。

公領(郷)とは

 中世の公領は、古代の律令的土地制度、つまり国家による土地支配体制が転換した結果、成立したものである。10世紀初めに国家の支配下にある公田に「名」〔みょう〕と呼ばれる一種の徴税賦課単位が設定されるようになった。これらの名ごとに租税をとりまとめる責任者は、動産的富の所有者であり、在庁官人(国衙行政の実務を行った現地の役人)や郡司(郡の行政実務の担当者)クラスの豪族の出身者であった。彼等は「富豪」層と表現され、11世紀ごろよりそれらの中から土地開発に乗り出し、開発私領を得てその過程で周辺の農民をその支配下に組み込んでいくものが現れた。こうしたものは開発領主と称されている。彼等が開発した私領は、国衙に登録され、公領として扱われ、「別名」もしくは「郷」とも呼ばれ、開発領主は郷司に任命されて国衙支配機構の末端に位置づけられた。こうして成立した郷は、徴税単位としての郷である。
 また、「別名」として把握された開発私領のうち、中央官庁に直属する支配地などに設定されたのは「保」〔ほ〕と呼ばれ、その開発領主は保司に任じられる。こうした新たに国衙のもとに組み込まれた中世的な郷や保を含めて、国衙の支配下に置かれた土地を公領と称する。

八潮市域および周辺の荘郷について

 武蔵国内においては、荘・御厨・保に比べて多数を占めるのは、郷(公領)である。ただし、多くの郷については、関係史料が限られており、どこまで公領として維持していたのかは不明な部分が多い。郷の中には、寄進などによって鶴岡八幡宮(神奈川県鎌倉市)や円覚寺(神奈川県鎌倉市)などの寺社領となっている例が確認されている。
 さて、中世の八潮市域は、大河戸御厨に含まれており、周辺部には下河辺荘(荘域は現在の幸手市・三郷市を含む埼玉県北葛飾郡のほぼ全域・越谷市春日部市・旧岩槻市などを含む南埼玉郡の一部、千葉県旧関宿町(現野田市)・野田市の一部・さらに茨城県五霞町及び古河市)、太田荘〔おおたのしょう〕(荘域は現在の羽生市・加須市・久喜市・旧岩槻市・春日部市・白岡市・宮代町など)、風早荘(千葉県松戸市北部から流山市西部付近に推定される地域・三郷市戸ヶ崎・八潮市大瀬)などの荘園が確認されている。一方で郷としては、八條郷(八潮市八條付近)が市域で確認されている。さらに周辺部には、赤岩郷(松伏町吉川市)、春日部郷(春日部市)、高柳郷(加須市高柳)、金井本郷(春日部市西金野井)、越谷郷(越谷市)、渕江郷(草加市足立区)、矢古宇郷(川口市・草加市)などの郷が確認されている。

参考文献・ホームページ

  • 埼玉県編集発行『新編埼玉県史 通史編2』(埼玉県、1988年)736~743ページ

(功刀俊宏)

関連項目

 ☆このページの平成24年(2012年)6月6日版(初版)はこちら

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