迅速測図・偵察録

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 「迅速測図〔じんそくそくず〕」は、明治前期に陸軍によって作成された、第1軍菅地方(関東地方)の縮尺2万分の1の地図。
 「偵察録〔ていさつろく〕」は、「迅速測図」作成の過程で生み出された兵要地誌(表紙に「秘」と記載)。

目次

八潮市域周辺の「迅速測図」

 八潮市域(当時は南埼玉郡の20か村)が含まれる「迅速測図」は、明治13年(1880年)4月から10月測量の4枚の図に分かれている。

公刊されなかった「迅速測図」原図(フランス式彩色地図)

※赤字の村名などをクリックすると、該当ページに移ります(一部はリンクなし)。
八條(近世村・大字)立野堀村鶴ヶ曽根村伊草村松之木村南後谷村小作田村柳之宮村上馬場村二丁目村西袋村中馬場村大原村木曽根村南川崎村伊勢野村大曽根村浮塚村大瀬村垳村古新田古利根川綾瀬川葛西用水藤波家住宅picture of a foo
※注意(脚注)参照[1]
※上記画像のファイルページはこちら

  • 4枚の図(復刻版)の各一部を合成した(重複する箇所は適宜削除)。
  • 赤で加筆した村名などについては、原図の表記を適宜改めている。村名の位置は、原図の記載には疑問な箇所があるので、下記「埼玉県管内全図」(明治20年〈1887年〉2月版権所有届)などを参考にして、適宜配置した
※西袋村付近における南埼玉郡と北足立郡の境界についても、疑問な箇所がある。
  • 古利根川(中川)には、名称が記載されていない渡船場の記号も存在する。
  • 戸ケ崎の渡し〔とがさきのわたし〕に藤橋が架橋されたのは明治14年(1881年)。

当時公刊された「迅速測図」(ドイツ式一色刷図)

 『八潮市史 自然編』30ページ参照

参考地図など

※画像について、拡大表示したい場合や出典を確認したい場合は、画像をクリックしてください。

Kannai-zenzu.jpg
明治20年(1887年)2月版権所有届 「埼玉県管内全図」(市域周辺)

※村境記載(明治の大合併前の村は黒)。「下妻道」(里道)なども記載。
※明治13年(1880年)の地図は、「埼玉県管内全図」(『埼玉県史料叢書1』付録)と「埼玉県管内里程一覧」(『埼玉県史料叢書18』口絵)もある。
※その他の地図などについては、「地図・絵図・航空写真にみる八潮周辺の変遷」参照


「偵察録」

「偵察録」にみる明治13年(1880年)村勢一覧表(市域村々と立野堀村)

明治13年(1880年)4月第1測期第1測回(「偵第壱番壱」)

地名 人口 戸数 学校 運輸手段 職工・職業 耕地(町数) 年収穫(石数) 家畜
「木曽根新田」
(木曽根村)
617 97 3 1 荷車4
小船7
大工4
桶工1
杣夫〔そまふ〕7
田78余
畝36余
米905余
麦296余
雑穀137余
鶏4
「中・下馬場村」
(中馬場村)
294 49 3 人車4
荷車2
大工1
桶工1
蓋匠4
田32余
畝20余
米449余
麦185余
雑穀39余
駄馬1
鶏100
家鴨〔あひる〕10
西袋村 418 64 2 人車1
荷車1
小船9
大工1 田51余
畝21余
林0.3余
米614余
麦102余
雑穀77余
駄馬1
鶏192
家鴨7
大原村
大曽根村
911 149 5 1 人車3
荷車7
小船9
大工4
桶工2
蓋匠2
田118余
畝52余
林0.1余
米1,486余
麦476余
雑穀1,164余
酒1
油1
駄馬1
鶏110
浮塚村 345 52 4 1 荷車3
小船8
大工1
桶工1
田39余
畝12余
米465余
麦107余
雑穀209余
鶏104


明治13年(1880年)7月第1測期第2測回(「偵第弐番弐」)

地名 人口 戸数 社寺 学校 運輸手段 職工・職業 耕地(町数) 年収穫(石数) 同左(俵数) 家畜 物産年所得(円?) 農事用水車
大瀬村
垳村
古新田
1,051 162 6 1 荷車16
小船42
鍛工1
大工3
蓋匠11
垸工〔かんこう〕1
舟手11
田124余
畝52余
米1,698余
麦371余
雑穀59余
油12余
琉球薯〔りゅうきゅういも〕12 鶏400
南川崎村
伊勢野村
555 90 6 1 荷車3
小船2
大工2
桶工3
杣夫6
蓋匠4
垸工1
舟手4
田87余
畝35余
林0.7余
米1,303余
麦306余
鶏280 繭41
茶21.5
菜種8.138
23


明治13年(1880年)10月第1測期第4測回(「偵第弐番四」)

地名 人口 戸数 社寺 運輸手段 職工・職業 耕地(町数) 年収穫(石数) 同左(俵数) 家畜
八條村 1,015 191 14 人車8
荷車7
小船100
鍛工2
大工3
船大工1
桶工3
杣夫1
医手1
田139
畝41
米2,224
麦626
馬鈴薯〔ばれいしょ〕80 駄馬1
鶏200
家鴨20
井205
鶴ケ曽根村 484 88 7 人車1
荷車3
小船43
大工10
杣夫3
蓋匠4
田80
畝24
米1,212
麦220
雑穀132
琉球薯18
馬鈴薯176
駄馬2
鶏308
家鴨48
井92
上馬場村 163 28 3 小船4 杣夫1 田17
畝10
米220
麦112
雑穀21
馬鈴薯25 駄馬2
鶏80
家鴨3
井19
柳之宮村 134 23 1 荷車2
小船13
蓋匠1 田11
畝7
米140
麦74
雑穀22
琉球薯10
馬鈴薯35
駄馬2
鶏60
井19
伊草村
小作田村
松之木村
426 101 7 人車1
荷車8
小船23
鍛工1
大工2
田77
畝23
米1,010
麦312
雑穀152
琉球薯126 駄馬5
鶏300
家鴨15
井86
立野堀村
南後谷村
734 115 8 小船25 大工2
桶工1
杣夫2
蓋匠3
垸工1
田114
畝46
米1,377
麦237
雑穀25
鶏230
家鴨10
井92
二丁目村 518 88 4 荷車3
小船2
大工2
桶工1
杣夫1
垸工2
田52
畝37
米786
麦344
雑穀59
馬鈴薯60 駄馬5
鶏264
井73

  • 村名の表記は、適宜改めた。
  • 町数・石数は、端数を略して「余」と表示した。
※1町=約99.17アール(9,917平方メートル)、1石=180リットル。
  • 「迅速測図」は、「木曽根村」と「木曽根新田」記載。「偵察録」の「木曽根新田」の耕地面積は、明治21年(1888年)10月「新町村造成表」(『八潮市史 史料編 近代1』史料100)の木曽根村の田畑面積に近似。
  • 「迅速測図」は、「中馬場村」(位置は疑問)と「下馬場村」(「中馬場村」の上、上記画像では加工の関係で見えない)記載。「偵察録」の「中・下馬場村」の耕地は、「新町村造成表」の中馬場村の田畑面積に近似。
※公刊された「迅速測図」にも「下馬場村」と記載。

各調査地区の概況

「偵察録」の記載の一部紹介(適宜抜粋)

 第1測期第1測回の上記市域村々および東京府南足立郡花又村(現足立区)他

  • 「政治 (中略)賭博・争闘頗ル〔すこぶる〕多シ(後略)」
  • 「人民 (中略)頗ル倹ヲ守リ勉強セリ、以テ兵役ニ使フベシ(後略)」
  • 「建築物料 家屋ハ木製蒿葺〔わらぶき〕ニシテ稀〔まれ〕ニ瓦屋アリ、ソ(ノ脱)木材料皆東京ニ仰ク」
  • 「農事 (中略)東京府中ノ野菜ハ此〔この〕地方ヨリ出ルヲ多シトス(後略)」
  • 「森林 社寺・人家ノ周囲ニ小面積ノ林アルノミ」
※『草加市史 資料編 地誌』に翻刻されている。

 第1測期第2測回の上記市域村々および北葛飾郡〔かつしかぐん〕戸ケ崎村(現三郷市)他

  • 「土地ノ景況 (中略)時々水害アリ、故ニ人民其居地ヲ堆積シテ建築シ預メ〔あらかじめ〕此稀(危)害ヲ避クル為メ戸々一・二ノ小舟ヲ貯蔵セリ(後略)」
  • 「人民 (中略)人情河岸ニ列スル村民ハ薄情ニシテ狡猾〔こうかつ〕ナリ(後略)気質ハ勇怯〔ゆうきょう〕相半ス」
  • 「家畜及動物 鶏多シ、又家鴨アリ、犬猫之レニ次ク、避(僻)遠〔へきえん〕ニシテ来往スル者更ニナキ、以テ測量課ノ輩至レハ其異風ニ吠ユ」
※『三郷市史 第10巻』に紹介されている。

 第1測期第4測回の上記市域村々と立野堀村および北足立郡草加宿(現草加市)他

  • 「地質 (中略)上層ハアラキダ(赤黒色)土(後略)」
  • 「人民 (中略)人情・風俗ハ稍〔やや〕良(中略)人民気質ハ義勇ト言フニハアラザレトモ、強剛者多ケレハ兵役ニ適スト言フモ不可ナラス」
  • 「住所 学校(中略)寺院ヲ用ユ(中略)寺院ハ(中略)八条邑〔むら〕西勝院ヲ除ク外茅〔かや〕屋(中略)住民ノ家屋ハ(中略)皆ナ茅屋(中略)間々大家巨屋アリ(後略)」
  • 「陸路 (中略)里道・村道ニ至テハ(中略)粘力アル赤黒色土多ケレハ(草加宿ヨリ柳ノ宮村及ヒ柿木村ヨリ上馬場村ニ至ル道路ハ砂地ナリ)雨降ルヤ道路泥濘〔ぬかるみ〕歩行困難(後略)」
※『草加市史 資料編 地誌』に翻刻されている。

参考文献・ホームページ

八潮市立資料館刊行物

その他

  • 有薗正一郎・遠藤匡俊・小野寺淳・古田悦造・溝口常俊・吉田敏弘編『歴史地理調査ハンドブック』(古今書院、2001年)18~20ページ
  • 埼玉県編集発行『中川水系総合調査報告書2 中川水系3 人文』(1993年)467、482、487ページ
  • 埼玉県教育委員会編『埼玉県史料叢書18 埼玉県布達集2』(埼玉県、2016年)口絵
  • 埼玉県県史編さん室編『埼玉県史料叢書1 埼玉県史料1』(埼玉県県政情報資料室、1994年)付録「埼玉県管内全図」
  • 草加市史編さん委員会編『草加市史 資料編 地誌』(草加市、1990年)口絵、6「偵察録」
  • 高橋操「埼玉東南部の各種地形図について」(『八潮市郷土研究会紀要 跡標』5輯、1976年) 
  • 高橋操「地形図に見る八潮の歴史」(『八潮市郷土研究会紀要 跡標』6輯、1977年) 
  • 三郷市史編さん委員会編『三郷市史 第7巻 通史編2』(三郷市、1997年)257~259ページ
  • 三郷市史編さん委員会編『三郷市史 第10巻 別編水利水害編』(三郷市、2000年)352~363ページ
  • 陸軍参謀本部作成『明治前期民情調査報告『偵察録』』(マイクロフィルム版、柏書房、1986年)
  • 『明治前期測量2万分1フランス式彩色地図―第一軍管地方二万分一迅速測図原図覆刻版―』(日本地図センター、2000年)11「東京府南足立郡花又村」(1班1号1測板)・224「東京府武蔵国南葛飾郡猿ヶ又村及埼玉県武蔵国北葛飾郡戸ヶ﨑村近傍村落」(2班2号7測板)・233「埼玉県武蔵国北葛飾郡丹後村近傍村落」(2班3号8測板)・235「埼玉県下武蔵国北足立郡草加宿近傍測図」(2班4号2測板)
  • 埼玉県立図書館ホームページ「埼玉県域の迅速測図」
  • 農業環境技術研究所ホームページ「歴史的農業環境閲覧システム」

関連項目

☆このページの令和元年(2019年)9月10日版はこちら
  1. 1.0 1.1 日本地図センター複製発行物・埼玉県教育委員会刊行物の図版を転載している画像について:利用規約の「著作権」の項(こちら)の「ただし、プリントアウトに限り(中略)許可不要とします」は、適用されません。
  2. 国土地理院の地図を使用している画像について:「この地図は、国土地理院長の承認を得て、同院発行の5万分の1地形図および2万5千分の1地形図を複製したものである。(承認番号 平23情複、第664号)。この地図を複製する場合には、国土地理院の長の承認を得なければなりません。」という文言を画像に挿入しています。
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